東播磨・北播磨の魅力

加古川がもたらした恵み
 東播磨・北播磨は、県の臨海部から内陸部にかけてのほぼ中央に位置し、東播磨地域の明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町(3市2町)、北播磨地域の西脇市、三木市、小野市、加西市、加東市、多可町(5市1町)の計8市3町で構成されています。日本列島における地理上の中心部でもあり、日本の標準時を定める子午線(東経135度線)が南北を貫き、北緯35度線と交差する「日本のヘソ」とも呼ばれる日本の中心地(西脇市)があります。
 兵庫県に河口を持つ河川の中では最長、最大の流域面積を誇る加古川はさまざまな恵みを地域にもたらしてきました。中世にはいくつかの舟運路が整えられ、闘竜灘(加東市)を中継地点とし上流から河口までの高瀬舟を用いた物流幹線の役割を担っていました。2003(平成15)年には「県立加古川河川敷マラソンコース(加古川みなもロード)」が整備され、毎年1 2 月には加古川マラソンが開かれています。

ため池を生かしたまちづくり
 弥生時代頃から稲作の発達とともに造られてきたため池は現在全国に16.7万カ所あるといわれています。兵庫県の数は群を抜いており、中でも万葉集でいなみ野と詠まれた東播磨地域にも数多く整備されました。
 東播磨地域は日本有数のため池密度を誇り、県内最古の天満大池(675年築造)や甲子園球場の約12倍という県内最大の加古大池(満水面積49ha)、多様な生物が生息する池、伝説が残されている池など個性豊かな「ため池」が数多くあります。また、ため池とため池は水路網でつながれて一帯の水田へ水を供給し続けるとともに、文化を育み、独特の風景をつくってきました。これらのため池群を核とした地域づくりを目指して2007(平成1 9 )年に「いなみ野
ため池ミュージアム運営協議会」が設立されました。ため池の保全活動や観察活動を農業者だけでなく、地域住民の力を結集した活動が高く評価され、2013( 平成2 5 )年には日本水大賞農林水産大臣賞を受賞しました。

臨海地域を中心とする産業集積
 明治維新以降、東播磨の臨海地域には明石市、加古川市、高砂市で紡績、毛織物工場の設置が相次ぎ、昭和に入ってからは鉄鋼、航空機部品、発電機などの重工業メーカーが進出するようになりました。これら大手企業の生産活動を支える金属加工業をはじめ、高度な技術力をもつ中小企業群も数多く集積し、「播磨臨海工業地域」を形成しています。
 工業統計調査(2019年)によると、東播磨地域の製造品出荷額等は、3兆6,183億円で県内の21.9%の割合を占めており、地域別で第1位となっています。

地域に根づく多彩な地場産業
 北播磨地域には地域ごとに地場産業が集積し、伝統を生かしながら新たな視点を取り入れて発展を遂げています。
 播州織は先に染めた糸で織り柄をつくる「先染織物」です。縦糸と横糸が折り重なることで自然な風合い、豊かな色彩の生地に仕上がります。先染織物の6割以上のシェアを占めており、シャツなどの製品に加工されています。近年若手の経営者やデザイナーが播州織に新たな活力を吹き込んでいます。
 三木金物のうち鋸(のこぎり)、鑿(のみ)、鉋(かんな)、鏝(こて)、小刀(こがたな)の5品目が国の伝統的工芸品に指定され、中でも手引のこぎりの全国シェアは約6.5割となっています。さらに、これに磨きをかけた新規性とデザイン性に優れた新製品の開発や新市場の開拓を行っています。近年は、欧米を中心に包丁や園芸用品、農機具が評価され、輸出が堅調に伸びています。このほか、小野のそろばんも国の伝統的工芸品に指定され、派生した木工芸品も地場産業として定着しています。
 また、釣針は、全国生産の約8割を占めています。針先を円錐形に削る技術は播州針ならでは。国内最古の釣針メーカーである株式会社土肥富は月産1億本の釣針を製造し、世界130カ国に輸出しています。

後継者育成に挑む産地の取り組み
 近年、北播磨の地場産業では、若手人材を育成する取り組みに力を入れています。ものづくりの魅力にひかれた若者たちが当地に移住する事例も増えており、人口減を打開する取り組みとしても注目を集めています。
〈播州織〉
 播州織の産地、西脇市には2017年春、若手デザイナーや織り職人のためのコワーキングスペース「CコンセントONCENT」がオープンしました。ミシンやデザイン用のコンピュータがそろい、先染めの糸を使った製品の開発、試作が可能。新たな製品や流行を発信する拠点としての役割も期待されています。利用者の一人、株式会社播ばんの鬼塚創さんは2016年4月、東京都内でファッション専門学校、大学院大学を卒業後、西脇市に移住してきました。現在は播州織の生地のデザイナーをしています。「生産地の背景や職人の持つ技術を知った上でデザインをしたいと考え、西脇にやってきた。来てみて播州織が世界に発信できる可能性をあらためて感じています」と話します。
〈播州刃物〉
 また、播州刃物の産地である小野市に、職人の後継者を育成するための工房「MUJUN WORKSHOP」が2018年7月に開設されました。運営に当たるのは地元のデザイン会社、シーラカンス食堂。現在、刃物職人を志す姫路市出身の20代男性、加古川市出身40代男性、東京都出身20代女性の3名が熟練職人の技を継承しています。代表の小林新也さんは「伝統を継承していくために、従来の方法にとらわれずにイノヴェイティブな考え方や仕組みのデザインを今の時代に合った形で行なっている」と語り、若者が集まってきやすい環境をさらに整えていこうとしています。


『高校生のための企業研究ガイド2021 兵庫県の企業 東播磨・北播磨版』(神戸新聞社、2021年)

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